20周年シンポジューム

キャンプの可能性【2】/20周年記念シンポジウム報告

キャンプの可能性【2】 ~アウトドア活動への期待~

■心配されるこどものからだと心・・・
前号でJON(日本アウトドアネットワーク)の20周年記念シンポジウムの第2部を紹介させて貰ったので、今回は第1部の基調講演。日本体育大学の野井真吾先生による「心配される子どものからだと心の現状とアウトドア活動への期待」を紹介させて貰います。

■「つかれたー!」
野井先生は、ある組織のキャンプに参加した子どもたちを対象に、何年かに渡りご自分の専門である体育科学の立場から子どもたちの「からだと心」を見つめてきました。
まず「からだ」を自律神経機能の側面から捉え、それを数値化して見ようと試みています。その実験は「冷水刺激」といって、冷たい物に触れたときに起こる血圧の変化を見てみようというものです。それによると日本の子どもたちは、刺激に対して異常とも言えるような強い反応を示すとのこと。つまり過敏なわけです。同じ東洋人の中国の子どもたちと比べてみても、それはかなり高い値を示しているので、東洋人の特徴と言うことではないようです。しかも刺激に対する異常反応だけでなく、安静になって行く過程も遅く、興奮が収まらない状態が続くとのことです。では、こういった反応が日常のどういうことに関わりがあるかと言うことですが、それは反応が過敏であればあるほど自覚的な疲労感を訴える率が高いと言うのだそうです。そういえばこの頃子どもたちはすぐに「つかれたー」と言いますね。

■「ねむいー!」
もう一つは体内に分泌するメラトニンという物質を時間毎に測定します。メラトニンは人の体温を下げ、その結果眠りを誘う働きをするとのこと。通常は夕方から夜に掛けて分泌量がもっとも高くなるそうです。だから眠くなるんですね。ところが日本の子どもたちは、分泌が明け方に最高値を示すと言うのです。これも世界的に見て非常に特殊な傾向だとのこと。キャンプの初日、子どもたちがなかなか寝付かないのは、嬉しくて興奮しているからなのだとばかり思っていたのですが、どうやらそれだけではないのですね。原因はゲーム機やテレビから発せられる強い光のためにメラトニンの分泌時間に狂いが生じているのではないか。と先生は言います。
この二つの事象を聞いただけで、子どもたちのからだが本当におかしな事になっているのではないかという不安がかき立てられます。

■落ち着きのない子どもたち
次ぎに「こころ」の問題として、この頃よく話題になる、いわゆる落ち着きのない子どもたち。この出現率に注目します。原因は前頭葉機能の発達の遅れが影響しているのではないかとの見解が一般的ですが、この率も他国に比べて数値が高いとのことです。しかし、この一群の子どもたちは3~4年生になる頃にはほぼ例外なく落ち着きを持ってくることが分かっています。遅ればせながら前頭葉が発達してくるからなのです。今、学校教育の特に低学年で問題になっている学級崩壊を引き起こす原因を作っている子どもたちであると言うことに思い至ります。では、何故この様な発達の遅れを引き起こしているのでしょうか。先生は「幼児期の子どもたちをワクワクドキドキさせるような経験が圧倒的に不足しているからではないのか」と言い「今日、声高に叫ばれている超早期教育、しつけ教育、道徳教育といった方法論はさて、子どもたちの根底の問題に届くのでしょうか」と先生は疑問を呈します。

■じゃれつき遊び
そして、ある保育園での取り組みを例に出しました。その園では特別な教育はなされていないにも関わらず、落ち着きのない子の出現率がきわめて少ないことを数値で示します。園の一日は「じゃれつき遊び」から始まります。とにかく目的もなしにひっついて、じゃれあって汗だくになって一時間ほど遊び、その後にその日の課題に取り組むというのです。たったこれだけのことですが、これも数値的な証明がされています。それはこの「遊び」をしないとその後に行う日常的なプログラムに集中力を欠き、終了するまで倍以上の時間がかかったり、怪我なども多いというのです。朝一番に思いっきり身体を使い、ワクワクドキドキしながら自由に動き回る。たったこれだけの事をするだけで前頭葉の発達を促せるのではないかと確信的に話されます。

■キャンプの役割りと限界
ぼくたちのやって来たこと、考えてきたこと、野井先生は見事に表現してくれました。「キャンプはこれらの事を全て解決してくれる方法論です」と確信を持って語れそうです。「アウトドア活動への期待」をぼくらは受けてたつ所存です。でも、ぼくたちはこの結論に、この期待を短絡的に喜んではなりません。なぜなら、キャンプから帰った子どもたちは日常に帰るからです。明日からはあの忌々しいゲーム器が彼らを待っていることを忘れてはなりません。日常の子どもたちの生活習慣や、しいては教育環境にまで影響を持たなければ、僕らのキャンプに対する思いは成就しないのではないのでしょうか。さて、これからぼくたちは野井先生の研究から見えてきた期待に応えるため何処へ向かえばいいのでしょうか。

P-MAC野外教育研究センター 代表:石井英行                                       <Cat Letter91号、NPO法人東京都キャンプ協会、2013年6月>より転載 

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