第2回「たぬき寝入り」

小山 重幸氏 (トムソーヤクラブ)

左から大岳、小岳、高田大岳の北八甲田連邦

春、木々の芽吹きの季節。八甲田山麓、奥入瀬渓流ぞいの一軒宿に滞在する。夜八時、この宿での楽しみのひとつ地酒「菊駒」とうまい肴を楽しんでいるところに飼い犬「まりこ」の激しい鳴き声。何ごとかと驚く私たち宿泊人に「あぁ、またサルでもやってきたのだろう・・」と宿の女将のすずしい声。ところが「まりこ」の威嚇する声はやまず、宿の前の笹やぶで私たちが目にしたのは、なんとまあ見事な「たぬき寝入り (失神状態に入っているタヌキ)」。

 

翌日猿倉岳を歩いて登る

たぬき寝入りという言葉を辞書で調べると“タヌキはひどく驚くとすぐ仮死状態におちいるが、この習性を「寝る」とみて、人が眠ったふりをすることをさす”とあるが、まさにその場に出会ったわけである。「まりこ」に威嚇された不運なタヌキはうつぶせにぐったりしたまま、触れても動かない。眼は開いたままだが焦点は定まらずうつろな状態。先人はよく動物の習性を観察して言葉を創ったものだ、と一同感心して宿に戻る。そして20分の後、予想どおりタヌキのすがたは消えていた。

動物の習性と言葉の結びつきに感心して同様の例をさがしてみた。「猫の目のよう」「猫なで声」「猫かぶり」。猫にかかわるものは意外と多い。どちらかといえば、良くない意味に使う言葉ばかりなのは猫の習性故か。「ねこばば (猫糞)」“猫が排泄したあと、脚で土をかけあとを隠すように悪事を隠して知らぬ顔をすること”などはちょっと気の毒に思う。ほかに、キャンプ中によく目にするのは「飛んで火に入る夏の虫」、夏の山を歩くと「ウドの大木」。残念ながらまだ見る機会に恵まれないのは「ヘビに見込まれた (にらまれた) 蛙」「目白押し」「河童の川流れ?」等々・・・。

雪解けまぢかの山の雪は固くしまり長靴で上れる

これらの言葉は、人々がいかに野生動物や植物と密接な暮らしを営んでいたかのひとつの現れだと思う。ほんの少し前の時代には、電車の中ではなく本物のタヌキ寝入りに出合う機会などは多くの人にあったに違いない。チャンスをつくって、キャンプ中に“自然現象や生物の習性に結びついた新ことわざ創り”で遊んでみようかなと思う。
※注:意味のわからなかった言葉は、辞書をひいて調べてみてくださいね。