第9回「組織キャンプと社会福祉」

中島 豊氏 (長野大学)

数年前まで同じ津軽の地に住んでいたよしみからか、高田さんのご指名を受けての執筆となりました。高田さんのエッセイに書いてあるとおり岩木山での氏の体験は、私自身岩木山で山スキーを楽しんだことがあることなどから、とても他人事とは思えませんでした。新聞にも大きく載り、直後の対応の慌ただしさを考えて氏への連絡を控えておりましたが、6月に再会の機会を得、事の詳細を聞くことができました。心配することしかできなかったのですが、お顔をみてお話を聞いて安堵した次第です。やはり、JONのメンバーの動向は気になるものです。

さて、編集担当者より送られてきた第6回以降のリレーエッセイを読み、事業者の方ばかりであるし、研究者として何を書こうかと迷いながら筆を進めています。 私の専門は社会福祉で、中でも分野とすると児童であり、実践の援助技術ではグループワークということになります。それ以外にも、社会福祉士や高校の福祉科の教員養成などを行なう社会福祉教育にも関心を持っております。さらに、野外教育にも手を出しております。そこでは大学院での専攻が障害児教育だったこと、そして社会に出てから喘息児キャンプにも関係を持ったことなどからキャンプの治療的可能性を探っています。また、障害児福祉施設で相談援助の仕事をしていたので、キャンプカウンセリングの体系化にも取り組んでいます。

そういった立場ですので、今回はあまり触れられていない組織キャンプ (以下、キャンプ) と社会福祉の関係について少し書いてみたいと思います。キャンプと社会福祉の接点は、20世紀初頭に体系化されたソーシャルワークとしてのグループワークに溯ることができます。そもそもグループワークの源流は、19世紀後半に行なわれていた幾つかの活動に求められます。これまでの研究によれば、慈善組織協会 (COS) の活動、セツルメントの運動、ボーイスカウトやYMCAなどの青少年活動、そしてレクリエーション活動がその主なものとされています。この中で、ボーイスカウトやYMCAは野外をフィールドとしてキャンプなどを実施し、小集団 (グループ) 活動を展開していました。つまり、キャンプを「ゆりかご」として小集団 (グループ) 活動は育ち、やがてソーシャルワークとしてのグループワークに発展していったわけです。もちろん、ボーイスカウトやYMCAにおける小集団(グループ)活動は教育方法の一つとして、今日でもそれぞれの団体で実施されています。

また、社会福祉-特に児童福祉の施設や現場においては、行事やレクリエーションとしてキャンプが実施されており、さらには社会福祉教育ではワークキャンプなどと称してボランティア養成などの場としても利用されています。

歴史的にみても現在でも、キャンプと社会福祉は浅からぬ関係を持っているといえますが、キャンプ関係者にも社会福祉関係者にも、そういった認識が十分にあるとは見えないのが残念です。そこで、私はこの関係をさらに深いものにしたいと考えています。例えば、社会福祉士などの社会福祉職の養成教育にキャンプを利用できないか考えています。今日でも、看護師や保育士の養成教育ではある程度利用されているとはいえます。それを、もっと突っ込んでキャンプを養成教育の必須科目の一つにしてしまいたいのです。以下、まだよくまとまっていませんが、思いつくままにその理由を書いてみます。

特に児童福祉施設では、職員は入所児の生活モデルとなり、子どもを指導していかなければなりません。生活モデルとなるということは、炊事、掃除、洗濯などができ自活していけなければなりません。また、施設は集団生活の場なのでコミュニケーションを円滑に進め、他者と折り合いながらやっていく能力が求められます。しかし、昨今の学生はそういった生活や集団経験がやせ細っており、将来、施設職員として勤めていくには不安の念を抱かざるを得ません。また、在宅福祉関係の職員-特にホームヘルパーには、多様で豊富な生活経験が求められます。高齢の利用者宅の限られた食材で利用者に供する食事を作る。マッチでガスコンロをつける。旧式の電化製品で、場合によっては箒とはたきで掃除する。二槽式の洗濯機をみたことのない若いヘルパーが訪問して洗濯できずに帰ってきた、などという笑い話はいくらでも聞かれます。

学生の乏しい生活経験を補うために、食住を自ら組み立て限られた環境の中で律していかなければならないキャンプの生活は、十分役に立つと思えるのです。また、集団生活経験のない学生が職員となって、集団生活を強いられる施設入所者の気持ちを理解できるはずがありません。一つのテントやバンガローで数人の仲間とともに生活するキャンプは、入所者の気持ちを理解するうえで貴重な体験となるはずです。そこでは、小集団の生活に起きる正と負=協力・団結と諍い・葛藤などを体験できるでしょう。さらに、キャンプでのカウンセラーやグループリーダーは、施設職員の立場と共通する点もあると考えられます。

キャンプは自然の中で行なわれます。自然と福祉の関係を考えると、弘前や長野などの老人福祉施設では、自然とともに生活をしてきたといえる農業を生業としてきた方がかなりの入所率を占めます。ところが、職員となる学生はほとんどが農業を体験したことはありませんし、そのためか自然への関心も薄いというのが社会福祉士を養成していての実感です。そうすると何が起こってくるかと言うと、一つにはコミュニケーションが取れないということが起きてきます。高齢者との絶対的な開きである時間の差を埋めることはできないわけですから、何かしらの努力を職員となる学生側がしなければ共通話題を見つけることはできません。農業の話題や移りゆく自然を題材に話の口実はいくらでも見つけられると思うのに、学生の実習では話題に詰まり無言で立ちすくむことがしばしばです。自然の中で行なうキャンプを体験し、プログラムに自然体験・農業体験を意図的に組み入れれば、少しはそういう発想に立った話題づくりも出てくるのではないかと仄かな期待を抱いています。

以上、雑駁ですが、早ければ来年度から私が担当する基礎教育科目の「キャンピング」の授業を、社会福祉職の養成教育の一環として、このようなねらいを定めて実施したいと考えています。