第19回「月に吠える」

伊勢達郎 NPO法人 自然スクールトエック(TOEC)

キャンプの下見と地元の方との打ち合わせを兼ねて徳島から2時間程、車を走らせる。 ここは、高知と徳島との県境、宍喰町竹ヶ島。アオリイカのシーズン。 キャスティングすること数十回。アタリなし。仕掛けを変えて、ガシラ、アイナメ等の根魚を狙う。

そこへ偶然、マグロ漁船入港。マグロ船の船主公文(くもん)さんは、その名も「まぐろや」という食堂の大将で地域の自治会の会長でもある。 公文さんは、港に軽トラを横付けし、次々と30K級のカジキマグロやビンチョウマグロを解体してゆく。見事な包丁さばきと大将の鍛えぬかれた太い腕は、まさしく海の男。カッコイイ。久々の帰港なのでさばかれたマグロは、島の各家へお土産だ。さばかれた残りの中骨もスプーンでこそぎ取ると一匹でゆうに大きなタッパー一杯の刺身に。その場でわさび醤油でひと口。冷凍物でないだけに絶品。「旨い。」こみあげてくる笑いをおさえることができない。「これももってけ」お言葉に甘えて、カブトや心臓もついでに頂く。

南の海の恵みは、誠に豊かだ。何やら釣りすることがアホらしくなってきてしまい竿をたたむ。 浜辺で火をおこし、マグロを肴に湯割をグイッとやるとおりしも満月が真正面の海から上がるではないか。おもわず「オーッ」と歓嘆の声をあげた僕はその後、なぜだか高笑い。気分は英雄なのだ。我ながらつくづくおめでたい人間だとあきれてしまうがすっかりこの場に陶酔。目の前は、太平洋。月の光が道となって海面に輝いている。しかもまっすぐに僕に向かって。(あたりまえ!)その光を全身で受け止めているとまた笑いがこみあげてくる。

次々と杯をかさね感動して、僕は、猛烈に意欲がわきあがってくるのを感じた。指導者、ディレクター、ファシリテーター等々呼び名はあれど、要するに我々はアウトドアが大好きな一人のキャンパーなのだ。ひとときでも単純素朴な暮らしに身をおき、人や自然とのつながり感を体感する。そのヨロコビ、手応えが、産業社会の向こう側の扉を押し開く原動力だし、我々の軸なのだ。

年は喰ってもそのエッセンスを感じとり、見極める力はより研ぎすまされてきている。若いやつにゃに負けないぜ。損だか得だか知らないが、それぞれ地球のかたすみで、JONの諸君、お山の大将やりぬこう。

思考と行動のギアをひとつシトフダウン。俺たちはただ遊ぶ。仕事や教育としての価値も意味もその場のプロセスと自然そのものが全てひきうけてくれるのさ。達成や発展や成長にとらわれることなく、多様性を認めあい共生していくカギは全て今ここにある。

月に向かって吠えるアウトドアオヤジの血は熱い。