第74回「トチノキ」

《トチノキ ムクロジ科トチノキ属》

トチノキの写真を撮りたいと、ずーっと思っていましたがなかなか撮れませんでした。何故なら高いところに咲くからです。遠くからでもよさそうなものですが、至近距離からの写真がどうしてもほしかったのです。

今年の春にやっと実現しました。トチノキなんて珍しくもないのに、いつも山へ入っている男がどうしてそんなに時間が掛かったの?と問われそうです。それは、花を愛でて山へ行きますが、いわゆる植物観察会という感じで山へ行くことは希だからです。むしろ山へ登ることがメインで、そこに付加価値を付ける意味で植物の解説などをしています。ですから、山道を歩く途中で、わざわざトチノキの写真を撮るために木によじ登るわけにも行きません。

ではこの写真どうやって撮ったのと言うことですが、答えは簡単、山奥の道路をクルマで走っているときに崖の下から生えているトチノキが道路の脇に伸びてきて、そこに花を咲かせていたからです。そんなこと山道を走っていれば日常茶飯ではないか。とまたまた言われそうです。確かにそうですが都会に住んでいるとこれもなかなかままならないんです。団体のバスで通り掛かって見つけても、止まれとは言えないし、自分で運転していても交通量が多ければダメだし、山行の時だって往きに見かけても時間の制約があるし、帰りはもう暗いし。ね!なかなかいいタイミングがないでしょ。しかもこの写真、風があったので少しピンぼけです。

ところで、何故至近距離の写真が欲しかったか、ということですが、見て下さい。遠くから眺めていると白くしか見えないトチノキですがなかなかカラフルです。一つの房に100ぼどの花を付けていますが、ここには色んな花が咲いているのです。すなわち雄しべしかない雄花、雌しべしかない雌花、雄しべも雌しべも付いている両性花。普通はこの三種類が咲いているのです。しかも、ピンクになっている花と黄色の花とがあるのが分かりますか。黄色い花は開花して三日以内、ピンクはそれ以降で、実は蜜を出していない花。ややこしい仕組みですが簡単に書きますと、花粉を運んでくれるマルハナバチにはサインを出し、黄色い花に来させ、仕事をしてもらい、その代償に蜜を吸わせます。ところが花の形の故に、蜜だけすって花粉を運ばない蜂や蝶もくるので、そちらの連中にはピンクの花でおびき寄せて、実は蜜は無いよ。といって追い払います。その間マルハナバチだけが蜜を貰って花粉もたくさんからだに付けて行きます。

こんな仕組みを持っているトチノキですので、それを確かめるためにも大きく至近距離から写真を撮ってみたかったのです。だけど、この写真は一寸残念。すでにピンクの多い房になっています。実になりかけている花もあります。もっと黄色の花が多くマルハナバチが訪れている花を見たかったのですが。

次回トチノキの写真を撮れるタイミングは何時来るのかなあ。と気をながくしてチャンスを待ちます。そうそうこのトチノキ、木になる実では大きさが日本一なんです。

P-MAC 野外教育センター 石井英行