第63回「カマツカ」

《カマツカ バラ科》

春の山へ入るとよく見かける。けれどもその頃は様々な樹木に似たような花を付けるので遠目にはなかなか区別が付かない。だから、知っているようで知らない花といえるかも知れない。しかし、この花の別名を聞けば多くの人は首を縦に振るのではないだろうか。

その名をウシコロシという。なんとも恐ろしい名前だ。ぼくはかつてこの名前から猛毒があるのではないかと思っていた。それは木なのか葉なのかはたまた実なのかと考えてそれぞれを少しずつ舐めたり囓ったりしてみたことがある。もし毒だとしてもむしゃむしゃ食べなければ平気だ。という思いがあって若い頃には色んな物を口に入れていた。ところがこのカマツカ、毒らしいところは何もない。実などは少し酸っぱいが食べて食べられないことはない。何でこんな名前が付いて居るんだろうと不思議でならなかった。

それがある時解った。漢字表記では「鎌柄」と書くのだ。ということは「丈夫だ」ということにほかならないではないか。牛を叩いて殺せるくらいに硬く丈夫な木という事なのだろう。と思い至った次第である。今でもそうだが若い頃はひどく思慮に欠けていたなと思う。少し冷静に考えればすぐにも思いついたろうと思う。

ところでぼくは「カマツカ」と聞くとまったく違うことを思い出す。それは上野瞭作「ひげよさらば」なのだ。ひところNHKで人形劇をやっていたので「ヨゴロウザ」という名前と共に記憶している人もいるかもしれない。では何故この物語を思い出すのかということなのだが、この話しに「カマツカ」が頻繁に登場する。残念ながら人形劇を観ていないのでテレビに出てきたかは定かではないが、原作の中には「ナナツカマツカ」という名で度々登場した。いや、キャラクターの名ではない。彼らの住処の近くにカマツカの木が7本植わっていたらしい。それで待ち合わせの場所などを指定するときに「ナナツカマツカの下で」などといわれて登場したのだ。

何が言いたいか。それほどに村はずれの林の縁などには多く生えているといいたいのだが、こんな風に印象的に植物の名を使ってくれると植物好きとしては大変嬉しいということだ。ということも同時に言いたいのだ。もしかすると「カマツカ」っていう木はどんな木なんだろうと思って図鑑を調べた子も居たのではないかと想像するからだ。

P-MAC 野外教育センター 石井英行