第59回「クロユリ」

《クロユリ ユリ科》

山でこの花を見かけると先ず誰かが「クロユリハコイノハナ~」と歌い出す。見たことはなくとも誰もが知っている花、というより知っている曲といった方が言いも知れない。ただし60歳以上の人に限られることは承知のうえだ。かくも有名な花なのだが決して「黒」くはない。いってみれば濃い紫色であろうと思われる。クロトウヒレンという花もあるが、あれも厳密には黒とはいいがたい。植物の世界に黒というのが希であるので少しでも色の濃い物があれば皆、「黒」と表現されるようだ。クロウズコ、クロクモソウ、クロツリバナ等々、手元の図鑑を広げてみると20種ほどクロの付く花の名が並んでいる。しかしどれもクロではない。ちなにみ英名では、チョコレートとなっている。なるほどクロよりは近いなと感ずる次第である。それでも北海道で見たクロユリはより黒に近い、という印象を持ったことを覚えている。そう言えば、かつて白山で大群落のクロユリを見たことがあるのだが今でも同じように咲いているのだろうか。

さて、歌のことだが、「クーロユリーは~~~。」と歌う人に「誰の歌でしたっけ」と知らん顔して聞いてみることにしている。もう何人もの人に聞いているのだが、正解を言い当てた人は誰も居ない。いわゆる演歌が大好きでそちらの方面の教室に通っているなどいう人に聞いても答えは返って来ない。「織井茂子さんという人です」というと当然のごとく「へぇ~そんな人知らない」という人と「わあ懐かしい」という人に別れる。「君の名は。を歌った人ですよ」というと「そおか~」といって皆さん破顔になる。流行というのは移ろいやすいものだなと思う。それでもこうやって多くの人の記憶にメロディーだけでも残っているのはいい方ではないのか。もっとも「~恋の花」のその先の歌詞も曲も知っている人は殆どいないというおまけ付きなのだが。

ともわれぼくにとってこういう現象というか状況はありがたい。山行の時、花の名前ばかり教えて歩いてもこちらとしては楽しくもないが、こんな事で参加者の人たちと世間話に興ずる事もできるのだから。ところで題名は「黒百合の歌」菊田一夫作詞、古関裕而作曲であります。

P-MAC 野外教育センター 石井英行