第56回「ミヤマミミナグサ」

《ミヤマミミナグサ ナデシコ科》

もうすぐ梅雨明けとなり、夏の本番がやってきます。夏は「海」でという人もいますが、ぼくはほとんど海へ出かけたことがありません。特にここ二年ほどは子どもたちのキャンプをしなくなりましたのでよけいに遠のいています。ぼくにとって夏はやっぱり「山」です。かつては若者達も随分夏の山へ上がって来ましたがこの頃はほとんど出会わなくなりました。しかし時々イヤに熱心な若者に出会ったりします。こちらが驚くほど高級な用具や小物を持っているのが特徴です。

そんな若者にある夏に質問されたのがこの花です。山小屋でお客さん達と歓談しながらその日に見た花のことで色々と解説をしていましたらデジカメを持って現れ「これ何という花ですか」と聞いてきたのです。「花びらが割れているのは何かの病気ですか。他の花はこんな風になっていないんですが」なかなか鄭重です。こちらは少しばかりお酒が入っていましたので「ああ、誰か破いたんじゃあないの」とからかい半分に返答をしますと「そうなんですか、それはひどいですね。こんな可愛い花にこんな事をするなんて許せませんね」と大まじめに答える。「いやいやそうやって沢山に別れているのが特徴でミヤマミミナグサっていうんだよ」と慌てて訂正をしてしまいました。するとその若者、ニコリとしたかと思うと後ろに控えていた仲間に「ほら、やっぱ新種じゃあないだろ」と得意顔でした。その後は次から次にデジカメの画面を見せられ少々閉口しました。こちらはお客さんともうすこし歓談を楽しみたかったので「よかったら図鑑を貸して上げるよ」というと大喜びでした。山小屋でこんな風に話しかけてくる若者は珍しいので本当ならもう少し話しをしたいところなのですが、昼間見かけた彼らの出で立ちを思い出して敬遠することしたのです。真新しい衣服に全員ダブルストック(杖を二本)雨でもないのにスパッツをつけ、ザックには細引き、鈴、カラビナをぶら下げ、山岳マラソンの人たちが使う水筒からチューブを通して水を飲み手袋までしている。駅のホームの一番隅でカメラを構えている青年達を思い出してしまったのです。

花の事に話題を戻します。写真は南アルプスの赤石岳周辺で撮った物です。図鑑などに出ている写真を見ますと裂けた花弁はもっと鋭く尖っていたりします。ぼくの知るところでは南に行くほど写真のように穏やかな切れ込みになっているようです。夏は高山植物を見るチャンスです。どうか山へお出かけ下さい。

あの若者達にもう少し親切にして、山の花に興味を持って貰えたら良かったかな。何て思ったりもしますが、若者がオタクっぽく花を見つめる姿を想像するだけで敬遠してしまいます。自分の事は棚に上げていますが。

P-MAC 野外教育センター 石井英行