第53回「ホザキシモツケ」

《ホザキシモツケ バラ科》

修学旅行とか林間学校はぼくにとってあまりいい思い出がない。昨今は林間学校とあまり言わない。言わずと知れた自然体験教室だ。中学生の時は成長痛のような痛みが膝にあって歩くのが辛かった。高校時代は一人旅を頻繁にしていたので集団で移動するのが煩わしくてならなかった。さて小学校の時の林間学校である。日光へ行った。戦場ヶ原をバスで通過するのだがその時バス酔いをした。つまり今のような舗装道路ではなく砂利のガタガタ道だった。バスを降ろされ湿原に駆け込んで嘔吐をした。しかもその時ぼくは大きな怪我をしていて腕を吊ってまでいた。忌まわしい夏の思い出である。

まったく記憶はないがあの夏、戦場ヶ原にはこのホザキシモツケが咲いていたはずである。勿論のちのち季節と場所を特定しての推量である。小学生が花など覚えているはずがない。誰もがそうではないだろうがぼくは嫌な思い出に結びつくところへはなるべく近づかないようにしている。その行為が顕著である。だから植物に興味を持ち始めてからこの花を見たいと数年間思っていたのだが夏の戦場ヶ原には一切近づかなかった。関東地方では戦場ヶ原にしかないと言われていてそこへ行きさえすれば何時でも見られるのに拒否しつづけていた。

ところが最近になって戦場ヶ原のホザキシモツケは絶滅しそうだというニュースを聞いた。イライラが募った。絶滅する前には見にゆかなければと少々あせった。あんな処に舗装道路など作るからだ。未舗装のままにしておけばいいのになどと愚にも付かない悪口を叩いていた。

ところがどういう訳か夏に戦場ヶ原へ出かける機会がなかなかないまま過ごしていた。だから人の話の端にホザキシモツケがでてくると悔しくてならなかった。 ところが昨夏、釧路へ出かける用が出来、忙しい最中なんとか時間を作って出かけたら目的地へ行くまでの道々にこの花が沢山それこそ雑草のように咲いているではないか。気乗りのしない用事を頼まれた旅であったがホザキシモツケの初見参少し得した気分の北海道であった。

長い雄しべが花のボリュウム感を作っていて華やかだ。静かで涼しげな北国の夏には似合わないがそのどっしりとした存在感がいい。

P-MAC 野外教育センター 石井英行