第47回「マツムシソウ」

《マツムシソウ マツムシソウ科》

夏になるとどこの山でも見られる花だ。それほど珍しくないので花に興味を持ち始めた人は初心者の頃からこの花の名前を覚える。だから山へ入ってこの花を解説することはほとんどない。山道を歩いているとぼくよりも早く見つけて「マツムシソウが咲いてますよ」と教えてくれたりする。少し高い山へ登るとタカネマツムシソウというのが出てくるのでこれには一応「タカネ」という冠が付いています。その違いは云々、と言うのだが殆どの人はマツムシソウが分かれば後は知らん顔の場合が多い。そんな時はぼくもそれ以上しつこく説明しない。

ところがある時、参加者の一人から「マツムシソウについて何か喋って下さいませんか」といわれたのだ。タカネであればそれ相応の説明を申し上げるのだが、皆が知っている花について何かを言えといわれると「葉の形が」とか「花の大きさが」などとすこしオタク的な説明をしなければならなくなる。しかたなしに実際にやってみると殆どの人はそこまで興味を持たない。質問をした人すら横を向いている。何だかすれ違ってしまって余り気分のいいものではない。

で、山行から帰って考えてみた。そんなとき街角の花屋でマツムシソウを見かけたのだ。それは外国産の花で名前を「スカビオサ」と付けている。日本のマツムシソウの学名をスカビオサ ヤポニカという。だから花屋さんは学名をそのまま名前にして、外国産ですよ。価値がありますよ。といった感じで販売していたに違いない。「スカビオサか~」と思って見ているときに。ああ、これだ!。と思った。

スカビオサ。というラテン語の意味は「疥癬」という意味である。原語でそのまま発音するから何となく新しく聞こえ、付加価値の付いたようにして商品価値が上がるのだろうが「カイセン」といって売っているのだ。彼の国の人たちには見た目が皮膚に広がる疥癬に見えるのだろうか。何だか痒くなってくる名前ではないか。

その後ぼくはマツムシソウを見るたびにこの話をすることにした。「何か喋れ」と言ってくれた人に今は感謝している。こうやってぼくらはお客さんに育てて貰うのだ。どんな風にして喋っているかは現場は来て下さいね。

P-MAC 野外教育センター 石井英行