第36回「コケイラン」

《コケイラン ラン科 コケイラン属》

少し前の話になるが植物を見ることを目的としたツアーで四国へ行った。その時に写したものである。数日後、同行した人から新種の花ではないのかと問い合わせがあった。彼も同じ花を写真撮影して調べてみたのだという。たしかその場で「コケイラン」であることを告げ、若干の説明を加えたはずだ。「野生のランを見ることはこの頃では極めて希になりましたね。そうは言いますがこの花は北海道でも九州でも見かけたことがあり私にとっては馴染みの花なんです」てなことを言ったと思う。

そんな説明をどんな風に聞いてくれたのか分からないのだが、彼曰く「あの時に買い求めた図鑑にコケイランというのは載っていませんでした。」だから「先生の勘違いであれは新種なのではないのか」と言う主張だった。良く聞いてみると、その図鑑の宣伝文句に「これ一冊あれば四国の花はすべて分かる」みたいなことが書いてあったのだそうだ。載っていないから新種だ。というのも随分短絡的な結論だが、大変生真面目な人だということがわかる。他の図鑑で検索することをお勧めして納得してもらったが、電話を切った後、なんとなく嬉しくて仕方がなかった。

電話で彼は「先生が新しい花を発見したら素晴らしいじゃあないですか」といったのだ。まあたしかにその通りだが、学者でもなくまたその道の泰斗と言うわけでもないのでまずあり得ない事なのだが、素人に毛の生えた程度の知識の上に成り立っているぼくの解説に対してそんな風にまで思ってくれる人がいるのか。なんて思うとやっぱり嬉しい。しかしなんともこそばゆい思いと同時に、ツアーの参加者に対してなんだか重大な責任を感じてしまった。それ以来彼とは会ってないが彼の言葉に励ませれる様にして日々研鑽を忘れないことを彼に報告したいものだ。

 

P-MAC 野外教育センター 石井英行