第29回「モクレイシ」

《モクレイシ ニシキギ科 雄花》

大磯海岸の陸側に屏風のように連なっている、湘南平と呼ばれる台地がある。そのハイキングコースを歩いていると時々このモクレイシにお目に掛かる。この湘南平、近所の人が散歩がてらにたくさん訪れるので至る所に看板があり、植物の解説がしてある。そして、いくつものプレートがそれぞれの木にぶら下がっている。ケヤキ、アラカシ、タブノキ、カゴノキ等々。訪れた人が、一つ一つの名前を確認したり、木その物を見上げたりしている。なかなかよい光景だ。ところが、このモクレイシ、看板には「この一帯が北限です」と解説があるのだが、肝心の木にはプレートが一つも掛かっていない。何故なのだろう。

だから、ぼくが写真を撮ろうと構えていると、何人かの人が声を掛けて行く。その声は「虫でもいるんですか」がもっとも多い。「ほら、花が咲いているんですよ」と言うと、皆一様に驚く。この写真は2月の中頃に撮ったものだ。まだ、寒さの真っ直中にこんなに春らしい花が咲いているとは思わないようだ。モクレイシであることを告げると皆さんたいそう喜んでくれる。こんな時が植物好きの至福の時だ。また一人、ほんの少しでも植物に興味を持ってくれた人が増えた。と思うからだ。

花は10mmにも満たない。ほのかな香りがある。そう、前回も取り上げた隔離分布。このモクレイシにもあって、神奈川、伊豆七島、伊豆半島に咲くが、その南はなんと九州南部、沖縄、台湾なのだとか。東海、近畿、四国はとばされてしまう。植物は不可思議です。

 

P-MAC 野外教育センター 石井英行